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Business and Biodiversity: 生物多様性、生態系サービスとは

生物多様性、生態系サービスとは

自然の多様性—脅威に晒されている我々の生活・経済基盤

生物多様性とは、地球上の生物種(種間)、遺伝子(種内)、生態系の多様性と定義されており、自然が安定した状態を保つ役割を担うのと同時に、生物圏がどのような状態にあるのかを示す目安ともなります。

エコロジカル・フットプリントなどで示される人間による影響の高まりによって、生物多様性が急速に失われています。これは、自然界における乱獲・乱伐、大気汚染や気候変動などが主な原因となり引き起こされており、最終的には、我々が安定し安心して暮らせる生活基盤が根本から揺るがされてしまいます。生態系の多大な価値から生み出される自然の「恵み」は、これまであまりにも長い間ないがしろにされてきましたが、近年、生態系の恩恵について次第に認識が高まってきています。この人間が生態系から受ける恩恵は生態系サービス(ecosystem services)と呼ばれ、次の4つに分類されます。

供給サービス:淡水や食糧、燃料、医薬品原料など一次原材料の供給を行う

調整サービス:気候変動、大気、水などの状態を調整し安定させる

文化サービス:審美的、感情的、精神的充足やレクリエーションの提供、新たな科学的発見を生み出すアイディアの提供(生体工学)など多岐に渡る文化面でのサービス

基盤サービス:、光合成による食糧、 養分循環や土壌の肥沃土の維持など付加価値の創造や人間の生産活動を支える

生態系は、効率的で順応性が高く素晴らしい相互作用をもってはいるが、もうこれ以上の負荷には耐えられない状態にあるのです。従って、人間の生活基盤を維持しながら持続可能な利用をすることが、次の世代のために今我々の世代が取り組まなければならない大きな課題となっています。

国際社会での取組み

国連は、1992年に開催された「環境と開発に関する国際連合会議」(通称「地球サミット」)において、この状況を世界規模での緊迫した課題を認識し、生物多様性条約(Convention on Biological Diversity, (CBD))を決議しました。現在190カ国以上が署名しているこの条約の目的は以下の通りです。

  • 動植物種、生態系、遺伝子の多様性の保全
  • 天然資源の持続可能な利用
  • 遺伝資源の利用から生じる利益の公正で衡平な配分

条約に関する定期的な締約国会議では進取的な議論が行われています。2010年は国際生物多様性年と定められ、この2010年までに締結国 は生物多様性の損失を止める、少なくとも損失速度を「顕著に減少」させることに合意をしました。しかし、実際にはこの目標は達成されませんでした。そこ で、2010年名古屋で開催された国連生物多様性条約第10回締約国会議において、2020年に向けた20の個別目標を含む第二の行動計画である愛知ターゲットが採択し、締約国は2011年から2020年までを「国連生物多様性の10年」と位置づけました。

ドイツでは2007年に連邦内閣において生物多様性国家戦略を制定しています。

遺伝資源へのアクセスと利益分配:ABS議定書

名古屋の締結国会議では、国際的な生物多様性保全における最も重要な分野で妥結がなされました。それは、遺伝資源へのアクセスと利益分配に関する議定書が採択に至ったことです。
遺伝資源へのアクセスと利益配分(Access and Benefit Sharing(ABS))に関するこの議定書では、遺伝資源の原産国と利用国の権利と義務について実効性を与えた議定書であり、それは、生態学的にも社会的にも持続可能な利用へと続く重要なひとつのステップとなりました。

原産国はその遺伝資源に関しての権利が保証され、さらに、これらの資源へのアクセス権を原産国と利用国との双方で事前に合意した条件に沿って規制することができます。例えば製薬会社は、遺伝資源として植物を利用する代わりに、利用した結果として生じた経済的利益やアイディアなどの文化資産的利益を公正で衡平に分配しなければなりません。これは、より合法的な活動基盤を構築できるのと同時にはっきりとした手順を踏んで遺伝資源を利用することができるため、先進国の企業によって大部分を占める遺伝資源の利用者にとって有益となります。また、原産国にとっても自国資源からの利益分配の権利が認められるため、相互にメリットが生まれます。

企業は、この議定書を受けて今後導入される法的規制に対して、自社の資源調達におけるマネジメントの改善に取り組まなければなりません。しかし、規制が導入される前に対策を行うことで継続的な資源の確保ができ、さらに社会の衡平性を高めることにつながるため、長期的な成果をもたらします。

 

価値評価の難しいものに価値をつける:TEEB報告書

2007年のG8議長国としてドイツは、欧州委員会と共同で「生態系と生物多様性の経済学」( The Economics of Ecosystems and Biodiversity (TEEB))という画期的な研究をスタートさせました。その実施は、 国連環境計画(United Nations Environmental Programme (UNEP))が担いました。これまでの成果はウェブサイトwww.teebweb.orgにて公開されています。また、ドイツは、「ドイツ自然資本ーTEEBドイツ」をスタートさせ、国内の取組みを強化しています。

TEEB報告書では、生態系サービスの経済的価値がこれまで考えられていたものよりもはるかに高いということが報告されました。生物多様性の効果的な保全には、膨大な費用がが必要となります。しかし、その費用は、このまま生物多様性が失われていった場合の生物多様性の損失に対して支払わなくてはならない費用によりは遥かに少ないものでした。これにより、生物多様性保全への投資は、経済学的に合理的であるということが示されました。

TEEB報告書ビジネス編(TEEB for Business)(英語)において、企業に対する生物多様性損失によるリスクの上昇と、それに対する取組みを示しています。そして、持続可能な生物多様性マネジメントの構築、原材料確保の過程における生物多様性に対しての影響(プラス・マイナス)の分析、実施のための基準や指標などの開発など、企業による積極的な取組みを促しています。 ‘Biodiversity in Good Company‘イニシアティブのリーダーシップ宣言(英語)日本語訳)において、これらの点が考慮されています。